「ギリシャと日本で対応する興味深い数種の蝶について」第六回 3/3

IV シロチョウ科(ツマキチョウ族:下) さて、この項の主役のツマキチョウ。

ツマキチョウは、ギフチョウのように「荘厳で気品のある美しさ」というわけではないのです が、結構可愛らしく、翅先の朱色が良く目立つので、英語圏の国々では「Orange Tip/オレンジ・ ティップ」という名で親しまれています。


もっとも「オレンジ色の翅先」は♂だけで、♀はその部分も白と黒のモノトーンです。ギフチ ョウ&モエギチョウ、コツバメ、ミヤマセセリは、ぱっと見では雌雄の区別を付けるのが難し いのに対し、ツマキチョウの♂♀は一目瞭然です。


実は、この原稿の大半は、2 月に入ってすぐ書き上げていたのですが、ひと月近くアップが遅れ てしまったのは、(むろんチエちゃんのほうの都合も有ったのだけれど)僕も完成原稿の送信 を忘れてしまっていたのです。


とうのは、この部分で、『♂と♀とは何か(♂と♀が存在する理由 etc.)』という話を、ツマキ チョウや昆虫全体などからも逸脱して、大論文(?)を書き始めてしまいました。


そのうちに、いつものごとく(笑)、アメリカン・ポップスの話題に向かってしまい(「ロジ ャー・ミラー」の「キング・オブ・ザ・ロード」と「ジョディ・ミラー」の「クイーン・オ ブ・ザ・ハウス」の話から始まって、とめどもなく広がって、収拾がつかなくなってしまった。 やばいやばい。


ここではその話は止めます。ツマキチョウは、“♂も「春の乙女」”ということにしておきます。


日本産のツマキチョウ属は 2 種。


ツマキチョウのほうは、日本のほぼ全国の里山に(時に都心でも)普通に見られます。ポピュラーな蝶の割には余り知名度はなさそうなのは、春早くにだけ出現することと、(同じころに 同じ場所で第一世代の親蝶が見られる)モンシロチョウやスジグロチョウの小さな個体ぐらい に思われていて、気にも留めらず見過ごされているのでしょう。


もう一種のクモマツマキチョウのほうは、一応「高山蝶」の一員とされているので、マニアに は大変人気があります(南北アルプス、八ヶ岳、妙高山系、、、ただし実際の棲息地は高標高 地ではなく、峰々に抱かれた深い渓谷)。


ツマキチョウの仲間は、以前は広い意味でのモンシロチョウの仲間(シロチョウ族)に含めら れていた(食草もモンシロチョウと同じアブラナ科)のですが、DNAの解析結果では、次に 紹介する予定のモンシロチョウの仲間(ミヤマシロチョウ属やカザリシロチョウ属なども含 む)とも、その次に紹介予定のモンキチョウの仲間(キチョウ属やヤマキチョウ属なども含 む)とも、血縁上遠く離れていることが判明し、独立の「ツマキチョウ族」が立てられていま す(熱帯性の巨大なシロチョウのツマベニチョウもこちらに近いようです)。


ナノハナ畑を飛んでいるツマキチョウ(殊に♀)を、少し離れた場所からモンシロチョウやスジグロチョウと見分けるのは意外に難しいのですが、コツを掴めば遠くからでも区別が付くよ うになります。


ひとつは止まり方。モンシロチョウの仲間は、翅を閉じていたり、半開きにしていたり、平らに開いていたり、いろいろです。モンキチョウの仲間は、静止時には必ず翅を閉じていて、開 くことはありません。ツマキチョウの場合は、活動中は開いていることが多いので、その点で はモンシロチョウの仲間と共通しますが、完全に開ききってしまうことは少なく、大抵は半開 きの状態で、花にぶら下がるようにして蜜を吸っています。


もっと顕著な特徴は、その飛び方です。余り寄り道をせずに、一直線に飛び進みます。そして突然花にとまって、しばし蜜を吸った後、また真っ直ぐに飛び去って行くのです。カメラマン 泣かせの蝶です。撮影中は、まるで陸上競技のインターバルトレーニングをしているような状 態になってしまいます。


ツマキチョウは翅先が鎌状に屈曲し、クモマツマキチョウは逆に、モンシロチョウやモンキチ ョウよりずっと丸みを帯びた翅型です。


ツマキチョウの仲間全体で言えば、丸い翅のクモマツマキチョウのタイプの方が主流で、ユー ラシア大陸に広く分布するクモマツマキチョウをはじめ、ヨーロッパ~アジア~北米大陸に数 多くの種が分布しています。


一方、鎌状に尖る翅を持つ種は4種だけで、世界的に見れば分布域も限られています。


日本や(奥地を除く)中国大陸に広く分布するツマキチョウ Anthocharis scolymus。中国の奥地、 四川省西部~雲南省北部などのチベットの高地帯に分布するユキワリツマキチョウ Anthocharis bieti。北米大陸の東海岸(アパラチア山脈からニューヨーク近郊にかけて)に分布するアメリカ ツマキチョウ Anthocahris midea。合衆国南部やメキシコ高地帯に分布するメキシコツマキチョウ Anthocharis limonea。


あとはみな、アメリカやヨーロッパに分布する種は、クモマツマキチョウ同様の丸い翅型です。


クモマツマキチョウは、ユーラシア大陸の比較的寒冷な地域に広く分布し、高山蝶の一つに数 えられる日本と違って、中国やヨーロッパでは、低地で見られることも珍しくはありません。


極めつけは、中国東部(長江下流域の上海近郊山地)に分布するヒイロツマキチョウ Anthocharis bambusarum です。日本で言えば屋久島と同緯度の、亜熱帯地域に位置する、低地の 菜の花畑を、熱帯性の蝶たちとともに舞っています(32 年前、僕の最初の中国行きは、その当 時「クモマツマキチョウの仲間がこんな暖地に分布しているはずがない、きっとデータの間違 いだろう」と言われていたのを、記録地の杭州郊外で再確認することが目的でした)。

↑中国産のツマキチョウ属 4 種:【上から】ツマキチョウ Anthocharis scolymus(陝西省秦嶺 2010.4.26)/ユキ ワリツマキチョウ Anthocharis bieti(雲南省香格里拉 2005.6.20)/ヒイロツマキチョウ Anthocharis bambusarum (浙江省天目山 2005.4.13)/クモマツマキチョウ Anthocharis cardamines(陝西省秦嶺 2010.4.25)


ギリシャには、クモマツマキチョウのほか、同様に翅型が丸い種が 3 種分布しています。うち 2 種は、翅の地色が白ではなく薄っすら黄色味を帯びていて(裏側では特に顕著)、ヨーロッパ ではギリシャ周辺にだけ見られます(東は中東からイラン周辺にかけて分布)。


他に、別属のツマグロチョウ属 Euchloe の 2 種も分布しています。♂の翅先がオレンジ色にはな らず、♀と同じ白黒模様です。


年に 2 回発生することもツマキチョウ属と異なる性質ですが、「大事なところ」の形状は両属で 全く変わりません。従って厳密には Anthocharis も Euchloea に含めるべきなのですが、ここでは 従来通り別の属として示しておきます。


ツマキチョウ族の大半は、ユーラシア大陸と北米大陸に分布していますが、南半球のアンデス 山脈にも、ツマキチョウ属に近縁で一属一種の Eroessa 属が分布しています。“エロエッサ”と は何とも魅力的な響きをもつ学名ですね。


中南米には他に、ツマキチョウ属 Anthocharis に近縁で外観がモンシロチョウの仲間に酷似した Heterocharis 属が分布しています。


9クモマツマキチョウ Anthocharis cardamines 10キイロツマキチョウ Anthocharis damone 11ウスキツマキチョウ Anthocharis gruneri 12ツマグロチョウ Euchloe ausonia 13キバネツマグロチョウ Euchloe penia



ギリシャに分布するツマキチョウ類 5 種


[左から]9クモマツマキチョウ Anthocharis cardamines(フランス Var, 2008.4, by Matt Rowlings)/10ウスキ ツマキチョウ Anthocharis gruneri(ギリシャ Macedonia, 2004.5, by Matt Rowlings)/11キイロツマキチョウ Anthocharis damone(シシリー島, 2018.5, by Matt Rowlings)/12ツマグロチョウ Euchloe ausonia(フランス Var, 2013.5.22, by Thierry Carabin)/13キバネツマグロチョウ Euchloe penia(ギリシャ Kozani, 2004.5, by Matt Rowlings)

9 http://www.eurobutterflies.com/sp/cardamines.php

10 http://www.eurobutterflies.com/sp/gruneri.php

11 http://www.eurobutterflies.com/sp/damone.php

12 https://www.butterfliesoffrance.com/html/Euchloe%20crameri. 13 http://www.eurobutterflies.com/sp/penia.php



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