「ギリシャと日本で対応する興味深い数種の蝶について」第六回 1/3

Ⅳ シロチョウ科(ツマキチョウ族:上)

ギリシャの気候は、緯度で言えば日本東北地方辺りになるのですが、気温はかなり暖かく、日本の南部に相当するのではないでしょうか? もうしばらくすると、春一番の蝶も現れるはずです。

春早くに出現する蝶には、幾つかのパターンがあります。

最も一般的なのは、一年中に何度も世代を繰り返す種の、第一回目の世代。例えばモンシロチョウは、東京付近では年に4~5世代を繰り返しますが、より暖かい地方では、最大7~8世代に達するのではないかと思われます(ただし南九州や沖縄などの、ごく暖かい地方では、冬の間もずっと活動している代わりに、夏の間は酷暑を避けて休眠している可能性があります)。

春早く現れるのは、このうち冬を蛹で過ごす種です。モンシロチョウやアゲハチョウもその一つで、春が来れば、すぐに蝶が羽化します。

年に何世代か繰り返す種でも、冬の間を幼虫で過ごす種の場合は、スタートがやや遅れます。卵で越す種になると、親蝶の出現は更に遅れます。年に一回梅雨の季節に出現するミドリシジミの仲間などが、その代表です。

冬の間を親蝶で過ごす種もいます。蛹で冬を過ごし、春に親蝶が羽化する種の場合は、冬から春に移り変わる季節に、少々暖かい日とか天気の良い日が続くからと言って、特別早く現れるわけではありません。蛹の体内で成長ホルモンを調節しながら(積算温量とか積算日照とかによって)羽化をするおおよその時期が、最初から決まっているのです(したがって、冷蔵庫に入れるとか、終日電球の光を当て続けるなどして、強引羽化させることも可能です)。

一方、親蝶で冬を越す種の場合は、寒い冬の間も完全に生理的な機能を閉じているわけではないので、冬の最中でも、ぽかぽかと暖かい、いわゆる「小春日和」の日などには、姿を現します。早春一番に出現する蝶は、実質的には前年の秋から親蝶のままでいる蝶というわけです。

冬を親蝶で越す種は、早春に卵を産み、次の世代の親蝶が初夏に現れます。最初の世代が再び卵を産んで、晩夏から秋には二回めの世代の親蝶が現れます。そして、この世代は、親蝶の姿のまま冬を越すのです。

そういった、一年の間に、最初の世代と冬越し世代の二世代が出現する種では、最初の世代がごく一般的な姿をしているのに対し、親で冬越しする世代では、翅の形や、閉じたときの裏側の模様が、敗れた枯葉等にそっくりに成ります(キタテハなど)。

また、成虫越冬する種の中には、春に卵を産み、夏に新しい世代の蝶が現れて、(2世代を繰り返さずに)そのまま冬越しする種もいます。

すなわち、同じ個体が(春に卵を産んだ後死に、次の世代が親蝶になるまでの僅かな期間を除く)ほぼ一年中親蝶の姿で過ごすわけです(ヒオドシチョウやヤマキチョウなど)。「蝶の姿」という前提では、最も長生きする蝶、ということになります。

もっとも、卵から親までを「一つの命」と捉えるならば、最も長生きなのは、過酷な状況に暮らす「高山蝶」(のうちのごく一部の種)です。

その日本における代表的存在が、北海道大雪山周辺の高山礫地のみに棲息するウスバキチョウ。

一年目の夏を(石礫などに産み付けられた)卵のまま過ごし、次の年の初夏に幼虫が孵化、短い夏の間に食草のコマクサの葉を食べ成長して蛹になり、そのまま2年目の冬越しを経たのち、足掛け3年目の夏になって、やっと次の世代の親蝶が現れます(*近縁な種でギリシャにも分布するクロホシウスバシロチョウや、同属種のアポロチョウの場合は、卵が産みつけられた翌年に親蝶になります)。

暖かく食べ物が豊穣にある条件に恵まれた地に棲む種は、一年に何度も世代を繰り返します。言い換えれば、恵まれた環境下に置かれた種の一つの世代(個体・命)は、卵や幼虫や蛹の期間を含めても、一か月生きているかどうかなのです。

それに対し、過酷な環境下に置かれた種は、ひとつの個体(個体・命)で何年も生き続けるわけです。

比喩的に表現すれば、辛苦の人生を重ね、独りぼっちのまま100才を超えても長生きし続ける人生と、青春を謳歌し、若い間に子供を作って、20歳そこそこで若死にしてしまう人生と、どちらが「幸せ」か、ということですね。

「個体」としての「生命」の維持と、「種」としての「生命」の継続。生物(命)にとって、 どちらがより基本的事項(優先順位)なのでしょうか?

答えは出ないでしょう。「人生いろいろ」というしかないのです。「時間」の持つ意味は、共通の物差しでは測れない、ということです。


↑日本では「高山蝶」の一つに数えられるクモマツマキチョウ。中国やヨーロッパでは低標高地にも見られます。しかし高山性の集団もあって、写真は四川省西部のチベット高原の一角(標高3500m付近、2010.6.7)で撮影したもの。このあと紹介するユキワリツマキチョウと一緒に飛んでいます。

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