「ギリシャと日本で対応する興味深い数種の蝶について」第六回 2/3

Ⅳ シロチョウ科(ツマキチョウ族:中)

話がまた逸れました。

蝶の生活サイクルには、上記のほかに、もう一つのパターンがあります。

最初に述べた、「春に蛹から親蝶が羽化する」うちの多くの種では、その年の間に引き続いて何世代かを繰り返しますが、春に産み付けられた卵がひと月ほどで蛹には成っても、夏に蝶の姿になることはなく(同じ年の間に世代を重ねることはなく)、蛹のまま夏(夏眠)と冬(冬眠)を過ごし(土くれや落ち葉や木や石の窪みなどに潜む)、翌年の早春に、満を持して親蝶が現れるパターンです。

別段、優劣があるわけではないですが、自然愛好家にとっては、「早春にだけ蝶が現れて、ほかの時期はどこかに潜んでいる」、、、、なんとも魅力的です。

これらの種のことを、「スプリング・エフェメラル」と呼びます。。

「エフェメラル」は、もともとギリシャ語で、「一瞬の儚い命」といったニュアンスだと思いますが、固有名詞としては昆虫の「カゲロウ(蜉蝣)」を指します。

昆虫は、一般的に「変体」(「変態」ではない)を行います。

変体は、ざっくり言えば、進化した昆虫ほどが明瞭で、原始的な昆虫ほど不明瞭です。「昆虫」でない「虫」、例えばゲジゲジなどの場合は、ずっと同じ姿を繰り返して脱皮し続けます。

カゲロウは昆虫の中では原始的な位置づけに置かれます(ちなみに「ウスバカゲロウ」や「クサカゲロウ」は、カゲロウの名は付いていても「カゲロウ」とは全く別のグループで、蝶やカブトムシなどと同様に、高等な昆虫の一群です)。

一般には、「カゲロウの命は一日」と言われていますが、個体(幼生時代を含めた一世代)として通してみれば、結構長生きで、多くの種が一年近く生きているそうです。

しかし、幼虫の時代には、何度も何度も(種によっては何十回も!)脱皮を繰り返し、いつまで経っても親に成りません。最後の最後に羽が生えて親に成るのですが、カゲロウの凄いことは、「親になっても親ではない」ということです。

すなわち「姿形」は紛いなき親なのだけれど、生殖能力がないのです。「親」の姿に成ってからもう一度脱皮し、そこで初めて「親」としての生殖能力が備わるのです。

そして、交尾の後、すぐに死んでしまいます。儚いことの代名詞を「カゲロウ(陽炎)」という由縁です。「エフェメラル」=「儚い一瞬の命」=「陽炎」=「カゲロウ(蜉蝣)」

「エフェメラル」すなわち「カゲロウ」ということになりますが、意味のイメージとしては「妖精」に近いかも知れません。

またまた話が逸れてしまいました。蝶々の話に戻しましょう。

前回は、日本の「スプリング・エフェメラル」、「春の女神」として知られるギフチョウ(アゲハチョウ科)と、そのギリシャに於ける対応種を紹介してきました。。

日本の「スプリング・エフェメラル」の代表的な種には、ギフチョウのほかに、ツマキチョウ(シロチョウ科)、コツバメ(シジミチョウ科)、ミヤマセセリ(セセリチョウ科)がいます。春の妖精カルテットです。

ギリシャなどユーラシア大陸の西部にはギフチョウ属の種がいないのですが、それにとても血縁が近いモエギチョウ(シリアアゲハから改称)が、早春「春の女神」となって現れます。

一方、そのほかのお供?の三匹(桃太郎とサル・イヌ・キジ、あるいは三蔵法師と悟空・八戒・沙悟浄のようなもの)に相当する? ツマキチョウ、コツバメ、ミヤマセセリは、ヨーロッパにも同じ属の種が分布しています。

日本では、ギフチョウ(およびその近縁種ヒメギフチョウ)は、人里に棲む蝶で、特に珍しい種というわけではないのですが、分布する地域は限られていて(四国・九州には欠く)、名前は良く知られていても(一部の地域を除いては)目にする機会は少ないものと思われます。

しかし、あとの3種は、日本の大抵の地域で、ごく身近にみられることが出来ます。最近の人里生物は、(帰化種ではなく在来種であっても)昔からその地に住み着いていたわけでなく、人為的な環境(都市緑地とか田畑とか)を好んで、いわば「舞い戻ってきた」ような種が多く見られる傾向がありますが、この3種(特にコツバメとミヤマセセリ、、、、ツマキチョウはしばしば都心の菜の花畑などにも出現)に関しては、もともと棲んでいた場所(ごくありきたりの山裾の雑木林など)に、今も昔と変わらずに棲み続けているように思われます。

コツバメとミヤマセセリは、中国大陸や朝鮮半島にも普通にいます。また、ギリシャを含むユーラシア大陸や、北米大陸にも、日本産と同一種と考えても良いほどのごく近縁な種が、複数種分布しています(このような分布様式を持つ種の大半は、九州本土の南部まで分布するのに、屋久島を含む西南諸島と台湾に分布しない、という共通項があります)。

ちなみに、ユーラシア大陸と言ってもヨーロッパなどの西部には分布を欠き、東半部(主に東アジア)にだけ分布する種の多くは、屋久島や台湾(および八重山諸島)にも同じ種やごく近縁な種が分布する傾向があります。

参考までに:東アジア(筆者撮影)とヨーロッパ(インターネットから)のコツバメ&ミヤマセセリ

【左から】コツバメの一種Callophrys sp.(中国雲南大理,2009.3.20,著者撮影)/Green HairstreakミドリコツバメCallophrus rubi(イギリスOxford, 2015.4.27, Charles J Sharp撮影*)/ミヤマセセリErynnis montanus(中国甘粛天水,2010.4.22, 著者撮影)/**Erynnis tages(イギリスBuckinghamshre, 2017.5.10, Charles J Sharp撮影*)*https://en.wikipedia.org/wiki/Green_hairstreak#/media/File:Green_hairstreak_(Callophrys_rubi)_3.jpg)

**https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Dingy_skipper_(Erynnis_tages)_male.jpg


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